津田直士「名曲の理由」 File10. 2つの子守唄「ブラームスの子守唄」「La La Lu」

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は 子守唄の名曲、ブラームスが生んだ「子守唄」とペギー・リー、ソニー・バークが生んだ「La La Lu」をご紹介します。

 

『ブラームスの子守唄』について: この曲は1868年、ブラームスが35才でウィーンで作曲家として高い評価を得始めた頃、友人に子どもが生まれたことから、それを記念して作曲されました。 ブラームスはバッハやベートーベンの音楽を深く敬愛していましたし、彼自身の音楽への高い評価から、ドイツ音楽の「三大B」と呼ばれるなどバッハやベートーベンと並び称されますが、バッハはブラームスより約150年も前、ベートーベンも約60年前に生まれているわけですから、音楽的な背景は2人とは違います。
活動した頃は1800年代の後半ですから、いわゆるロマン派の真っただ中ですね。にもかかわらず、ブラームスの代表作である「交響曲第1番」が「ベートーベンの交響曲第10番」だと言われるように、そして「交響曲第4番」の最後の方で突然バッハのカンタータ第150番の主題をモチーフにした部分が現れるように、古典主義的な要素が強いところが、ブラームスの音楽の特徴といえます。ブラームスはそのため「新古典派」と称されることもあります。
ブラームスの音楽的な特徴としては、彼が崇拝するベートーベンや同じ世代のチャイコフスキーなどと比べると、天才的なメロディーを生むことより複数のメロディーをオーケストレーションする才能が際立っています。交響曲以外にも、ハンガリー舞曲など民族音楽の編曲や変奏曲などで多くの作品を残しているのがその証だとも言えます。
そんな中、私は「弦楽六重奏曲第1番」の第2楽章が大好きです。確かにこの曲もメロディーは比較的オーソドックスなラインで、むしろメロディーを支える和声の美しさが際立っているという傾向はありますが、いずれにしても間違いなく素晴らしい名曲であることは間違いありません。

『La La Lu』について:  この曲はディズニー映画「わんわん物語」の主人公、犬の「レディ」を飼っている女性「ダーリング」が自分の赤ちゃんに歌ってあげる子守唄です。実際に歌を歌っている歌手で作曲も手がけるペギー・リーが、ソニー・バークと共作して生みました。「わんわん物語」の中で、愛情豊かに飼われる「レディ」と飼い主の「ダーリング」、そして生まれたばかりの赤ちゃんへの愛情が美しく描かれるシーンを象徴する子守唄です。

 

それでは早速、2つの名曲子守唄の魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

2つの子守唄に共通しているのは、『シンプルで優しいメロディーのくり返し』 です。

『ブラームスの子守唄』では(0:07)、「ミミソー」というシンプルで優しいメロディーでスタートしますが、この「ミミソー」が2回くり返されるところがポイントです。
一方『La La Lu』を見てみますと、これも同じように(00:57)「ミファソー」というシンプルで優しいメロディーが2回くり返されます。
また、どちらもそのくり返しの後に、そのメロディーが少し変化して次のメロディーへ移ります。

『ブラームスの子守唄』では、「ミソ」が再びくり返されたあと、高い「ド」へ一気に上がり、「シーーーララソーー」と降りていきます。
『La La Lu』では「ミファソー」が再びくり返されたあと「ソーラ ソーミー」が受けて、そのまま「ソーソーソーレードーシー」という母性の感じられるメロディーが夢を見るような和音に支えられて展開します。

さて、次の展開も、2つの名曲子守唄が共通する部分です。これもやはり大きな『くり返し』です。

『ブラームスの子守唄』では「ミミソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「レミファー」が2回くり返されます。(00:17
『La La Lu』では「ミファソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「ファソラー」が2回くり返されます。(01:18

こういった共通点は『子守唄』という性質から生まれたものでしょう。 子守唄はお母さんが赤ちゃんに語りかけるように歌うものです。

ゆったりとした優しいメロディーで赤ちゃんに語りかける。 くり返すことで、眠りにいざなう。 それをさらに少し変化させながら、再びくり返すことで、さらに安心して眠れる空気を作っていく……。

おそらくそういった『子守唄』という性質が、2つの名曲を支えているのでしょう。

さて、他にも2つの名曲子守唄に共通する特徴があります。

まずどちらも3/4拍子、いわゆる3拍子です。

これは私の解釈ですが、この子守唄での3拍子というのは、2拍子に1拍子が余白として足された結果なのではないかと思います。抱っこをして赤ちゃんをあやす動作を考えてみると、優しく「よし、よし……」と揺さぶったあと、一拍余白が入るのです。どうも、この動作から自然と3拍子の子守唄が生まれているのではないか、と私は考えています。 

いずれにしましても、ゆったりとした3拍子のもつ柔らかいリズムが、2つの子守唄に共通しています。

次に和声に注目してみましょう。

実はどちらも「和声が緩やかに移り変わっても、低音がしばらく同じままで続く……」というところが共通しているのです。

先に『La La Lu』を見てみましょう。
テーマである「ミファソー」がくり返される間、(移動ドでの)「ド」「シ」「ラ」「シ」の音が移り変わる和音(このような和声進行をクリシェと呼びます)が展開されますが、低音はずっと同じです。
次のくり返し「ファソラー」でも同じように、(移動ドでの)「レ」 「ド♯」「ド」「シ」の音が移り変わる和音が展開されますが、低音はずっと同じです。

次に『ブラームスの子守唄』を見てみましょう。
実はこの曲に至っては、3つの和音が移り変わっていくのに対して、何と、曲中ずっと同じ低音が続いていくのです。

このように、同じ低音が続く理由は、赤ちゃんを安心させて包み込む、母性の持つ力強い安心感というイメージから生まれているのでは、と私は感じます。

また、メロディーの音域はどちらも約1オクターブです。お母さんが優しく語りかける歌ですから、音域がさほど広くないのは当然かも知れません。

そしてどちらの曲も、曲の長さが比較的短く、かつシンプルで優しいメロディーのくり返しが特徴であるため、短くてもちゃんと心を揺さぶる美しいメロディーが、展開部分にちゃんと存在しているのです。

『ブラームスの子守唄』では、低い「ドド」から、高い「ド」へと一気に昇って「ラファソーー」というメロディーが受けとめるところが、心を動かしてくれます。(00:27

『La La Lu』では、後半「ソーファーミーレーミード」と落ち着かせるメロディーが登場した直後、上の「ラ」へ一気に上がって心を動かし、さらにテーマの「ミファソー」と対になるような、けれどずっと高い音域の「ラシドーー」が3回繰り返されて心の高まりを表し、さらに「ソーミーシーラー」と夢のようなメロディーが心を包みこむところです。(01:49

いかがでしょうか。赤ちゃんへの愛情が見事に曲として表現された、子守唄の名曲。
一見、ただシンプルで優しいうた、と思われがちな子守唄にも、名曲ならではの高い音楽性がちゃんと隠されているのですね。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル “Onebitious Records” 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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